聖なる鹿殺し The Killing of A Sacred Deer (ネタバレ感想)
作品データ
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あらすじ・概要
「ロブスター」「籠の中の乙女」のギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、幸せな家庭が1人の少年を迎え入れたことで崩壊していく様子を描き、第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞したサスペンススリラー。郊外の豪邸で暮らす心臓外科医スティーブンは、美しい妻や可愛い子どもたちに囲まれ順風満帆な人生を歩んでいるように見えた。しかし謎の少年マーティンを自宅に招き入れたことをきっかけに、子どもたちが突然歩けなくなったり目から血を流したりと、奇妙な出来事が続発する。やがてスティーブンは、容赦ない選択を迫られ……。ある理由から少年に追い詰められていく主人公スティーブンを「ロブスター」でもランティモス監督と組んだコリン・ファレル、スティーブンの妻を「めぐりあう時間たち」のニコール・キッドマン、謎の少年マーティンを「ダンケルク」のバリー・コーガンがそれぞれ演じる。
予告編
映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』予告編
鑑賞データ
- 事前情報無し
- 2018/3/10
- シネ・リーブル梅田
- 日本語字幕
- AM10:20からの回の割には結構入ってたか
評価
★4つ
以下、ネタバレしてます。
陰鬱とした色彩、アングル
都合の良い上映時間だったので、ふらっと観に行く。
シネ・リーブル梅田はなぜかジンジャーエールが異常に美味い。
ヨルゴス・ランティモス監督・・・。ああ。『ロブスター』の人か・・・。評判は聞くけど、観てないんだよな・・ぐらいの温度で。
冒頭、真っ黒な画面から急に開胸手術中の剥き出しの心臓が映され、いきなり面を食らう。 生々しい命の映画ですよ、という宣誓なのかも。
続くシーンもおかしい。 おじさん二人がお互いの腕時計を褒め合い、
「防水は何メートル?」
「200メートルだ」
普通そんなこと聞くかね?違和感すごい
しかもおじさん二人、全く笑わない、というか表情が変わらない。
無表情なのはおじさんだけではない。とにかくこの映画、登場人物がみな一様に無表情で低体温。 画面も全体に青暗い。
そもそも、この映画、舞台はどこなんだろう・・。アメリカの英語じゃない気もする。。スコットランドとか?
低温の中の確かな歪み
主人公は心臓外科医で奥さんは眼科の開業医(ニコール・キッドマン!)、かわいい子どもが二人。
どう見ても幸せ。だけど笑顔がない。会話も全くはずまない。
どうもこの家族は豊かだけど全く満たされていない。 中身がない人形あるいは死体のように。
夫婦の営みに誘う時も、下着(これも絶妙に地味)姿になった奥さんが無言でベッドに横たわる、手術台の上、麻酔を打たれた患者を思い起こさせる。
しかもニコール・キッドマン扮する奥さん。妙に色気のない筋張った身体をしていて、それがまた不気味というか、綺麗なんだけど興奮しない絶妙な身体。役作り凄いわ。。
不気味な少年
主人公が奥さんに隠れてコソコソ会っている15歳ぐらいの少年マーティン。
マーティンが物語のキーマンだけど、もちろん無表情。
ただ他のキャラクターに比べて饒舌ではあるかな、という印象。(会話の内容はすごく変。ここら辺の会話が映画的にはすごく重要っぽい)
あまりにもコソコソ会ってるし、腕時計をプレゼントしたりするから、すわゲイ展開かと思ったが、そういうわけでもなく。
マーティンは主人公が以前に医療ミス(ほろ酔いでオペ)で殺してしまった患者の遺族で、その負い目から気にかけていた、という関係性。
主人公は父親をなくしたマーティンを心配して、
「バイク乗るときはヘルメットをしろよ」
などと父親代わりを気取った発言。
これは所謂"王様の優しさ"というやつ?無意識な見下しを含んだ嫌な愛情。 結局主人公は贖罪意識が呪いとしてあるので、なんか気味の悪い温度感でマーティンに接してる。
マーティンを家族に紹介したぐらいから、マーティンの態度に変化が現れて、
主人公の職場や駐車場に突然現れたりで、徐々にストーカーのような状態に。
このマーティン。最高に不気味で居心地が悪い演技で、、凄い役者がいたもんだ。
マーティンを演じたバリーコーガン。
『ダンケルク』にも出てたみたいだけど、思い出せん・・・。
今後凄い売れるんじゃないかしら。ジャレット・レトみたいになっていきそう。
死に至る呪いと贖罪
主人公の家族は、マーティンの謎の呪いにかかる。それが、
- 手足が麻痺する
- 拒食
- 目から流血
- 死に至る
というもの。 謎に段階がある。
呪いを解くには主人公の手で家族の誰かを殺めなければならない。
そうしなければ家族全員が死ぬ。というルール。
ここで急に超自然的なパワーが出てきて混乱するんだけど、マーティンの不気味な存在感により納得してしまう。絶妙なリアリティラインが保っている感じ。
特に素晴らしいのは、この呪いについてマーティンが主人公に説明するシーン。
「先生忙しいみたいだから急いで言うね」と、超怖い呪いを淡々と早口で説明。
「先生は僕のお父さんを殺したよね。だから先生も家族を一人失う必要があるんだ。」
なんて、急に贖罪を迫って来る。
え、もう死神にしか見えないっす・・。こわー・・
呪いによって壊れていく家族
呪いによって、空っぽに見えていた主人公とその家族に感情が生まれる。
主人公が一人庭で号泣したり、過去の医療ミスを奥さんに追求されて激昂したり・・
ここからはひたすら鬱展開まっしぐら。
奥さんは奥さんで、旦那の医療ミスの確証をつかむために、旦那の同僚に色仕掛けを使ったり。(報酬は手コキ)
子どもたちも自分が助かりたいから、主人公に気に入られようとしたり、
奥さんも「子どもはまた産めばいいわ」なーんて怖いこと言い出して、全員異常者状態。
極めつけは主人公の暴走。
『プリズナー』を観た人ならわかると思うけど、要は拉致&拷問で呪いを解かせようという実力行使。
しかし、マーティンが呪いを解くことはなく。ついに主人公は選択を迫られる。
家族の中から誰かを殺す、究極の選択を。。。という流れ。
まさかのグルグルバットロシアンルーレット
結果、主人公が取る行動っていうのが、
- 目隠しをした家族を椅子に座らせる
- 同じく目隠しをした主人公が、その場でグルグル回る
- 向きがわからなくなったところでライフルを発砲
というもの。
「あ、自分で選ばんでもええんや・・」と。
しかも、
目隠ししてグルグル→バーン!→当たらなかったのでもう一回
の流れはめちゃくちゃ重いシーンのはずなのに笑ってしまった。多分笑うで合ってる。
あれは意地悪かった。本当に。
あそこであんなコメディを入れるのはズルい(褒めてる)
結局「聖なる鹿」って?
タイトルの「聖なる鹿殺し」の「聖なる鹿」って何を指しているのか?
主人公は結局、家族を一人殺してしまうわけで、ということは鹿=家族??
ここら辺は全く分からなかったので、ちょっと調べてみた。
どうも、この映画の脚本は、ギリシャ悲劇である「アウリスのイピゲネイア」をベースにしているようで。
自分の娘を生贄に捧げなくてはならなくなり、苦悩するアガメムノンの葛藤を描いた悲劇が元ネタっぽい。
上記のWiki記事の最後に、生贄として殺されたイピゲネイアは鹿と入れ替わった、とある。
ギリシア悲劇の知識がないため、詳しいことは分からんけど、生贄となったイピゲネイアと入れ替わった聖なる鹿。それを殺めてしまう男の話。ということになるかな。